お正月の華やかな気分も寒の入りを過ぎる頃には落ち着いて日常が戻ってきます。二十四節気の「小寒」の次候にあたる1月11~15日頃は、七十二候の「水泉動」。「しみずあたたかをふくむ」と読みます。ちょうど1年でいちばん寒い時季ですが、地中では陽気が生じ、凍った泉では少しずつ水が動き始めている様子を表す言葉が「水泉動」です。あたり一面が冬枯れた晩冬の景色には一見、生命の躍動を感じさせるものは何もありません。しかし、身がすくむような寒さでいてついた地面の下では、ほんの少しずつ春に向けた準備が始まっています。目に見えない自然の変化を見逃さず「水泉動」と表現した先人の鋭い観察眼や美意識。文明の発達と引き替えに私たちがこうした細やかさを失いつつあるとしたら、それはとても残念であり寂しくもあります。
日本語の「文明」と「文化」は同じように使われますが、この2つは似て非なるものであると考えているのは生物学者の福岡伸一氏です。福岡氏いわく「文明は人間が自分の外側に作り出したある仕組み」。電気、携帯電話、インターネットなど、生活の便利さ快適さ効率を追及するために作られたものです。一方の文化とは「人間が自分たちの内部に育ててきた仕組み」。私たちの歴史と共にあり、土地に依存して風土に寄り添い、私たちの生命を守って生活を支えてきたものを福岡氏は文化と呼びます。現代はずいぶん文明寄りになっていると感じますが、ここ数年「アート思考」が注目されるようにもなりました。
大雑把にいえば、自分だけのものの見方であり、既成概念の外し方と表現する人もいます。「これからは経営セミナーより美術館」だと言って、美意識を鍛える経営者が増えているとも聞きます。厳冬でも地中に春が眠っているように、先人から受け継がれてきた文化は私たちの中にあります。自然がゆっくりと春に向かっていくように、ここで改めて文化に触れ、より心のこもった商売をしていきたい。そんなことを考えた新年でした。
松橋丈雄(税理士・長野市)
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